三菱パジェロと岐阜県坂祝町は、約40年にわたり生産を通じて結びつき、「パジェロの町」と呼ばれるほど深い関係を築いてきました。
現在は坂祝町での車両生産は終了していますが、2026年秋に復活する新型パジェロを理解するうえでも、この岐阜の生産拠点の歴史は知っておきたいポイントです。
三菱パジェロと岐阜・坂祝はどんな関係だった?
三菱パジェロと岐阜県加茂郡坂祝町の関係を簡単に言えば、坂祝町が長年にわたるパジェロの主要な生産拠点だったというものです。
町内には、かつて三菱自動車の100%子会社「パジェロ製造株式会社」の本社と工場がありました。
同社のルーツは1943年に岐阜市内で設立された東洋航機株式会社までさかのぼります。その後、社名変更などを経て、1976年に坂祝町へ全面移転しました。
1978年にはピックアップトラック「フォルテ」の一貫生産を開始し、1982年からパジェロの一貫生産に乗り出します。
つまり、1982年に初代パジェロが登場した時期から、坂祝町はパジェロの歴史そのものを支えてきた場所の一つだったわけです。
1995年には会社名そのものが「パジェロ製造株式会社」へ変更されました。
一つの車名が会社名になること自体、そのモデルが事業の中心だったことを強く感じさせます。
私自身、クルマを選ぶときは価格や燃費、装備に目が向きがちですが、パジェロのようなモデルでは「どこで、誰が、どのように長年造ってきたか」まで見ると、そのクルマの背景がかなり立体的に見えてきます。
坂祝町とパジェロは、単純な「工場所在地と製品」の関係を超えた存在だったと言えるでしょう。
なぜ坂祝町は「パジェロの町」と呼ばれた?
岐阜県坂祝町が「パジェロの町」とまで呼ばれるようになった最大の理由は、工場が地域経済と暮らしに大きな影響を与えていたからです。
坂祝町は岐阜県中南部に位置し、人口は約8千人。決して大きな自治体ではありません。
その町に大規模な完成車工場があり、多くの従業員や関連企業が集まっていました。
2015年に紹介されたパジェロ製造の広報担当者の説明では、坂祝町の公式サイトでパジェロが「特産品」として掲載されるようになったのは2000年ごろだったとされています。
当時すでに「坂祝町といえばパジェロ」というイメージが地域に定着していたことに加え、パジェロの生産が坂祝町へ集約されていったことや、関連企業が町周辺に多かったことも背景にあったようです。
農産物や工芸品ではなく、自動車そのものが町の特産品として紹介されていたというのは、かなり珍しいケースではないでしょうか。
さらにパジェロ製造は、単に工場を構えていただけではありません。
岐阜県内の小学校約100校、年間約5000人の子どもたちを工場見学に受け入れていたほか、「パジェロ製造ファミリー祭」や河川清掃、「さかほぎ町民まつり」への参加など、地域との交流にも力を入れていました。
こうした積み重ねが、「三菱の工場がある町」ではなく、「パジェロの町」という独特の地域ブランドにつながったのでしょう。
そして、その存在感は税収面でも非常に大きなものでした。
朝日新聞が2025年9月に報じた内容によると、コロナ禍前の2018年度には、パジェロ製造が坂祝町の税収全体の16%、法人税に限れば34%を占めていました。
町の法人税のおよそ3分の1を一社が支えていた計算です。
この数字を見ると、「パジェロの町」という表現が単なる愛称ではなかったことが分かります。
パジェロは全国や海外へ販売されるSUVであると同時に、坂祝町にとっては雇用、税収、地域活動、さらには町の知名度まで支える存在だったのです。
岐阜・坂祝のパジェロ工場では何を生産していた?
坂祝町の工場といえばパジェロの印象が圧倒的ですが、実際にはさまざまな車種を生産していました。
パジェロ製造の沿革では、1978年にフォルテ、1982年にパジェロ、1991年にはストラーダの生産を開始しています。
さらに2007年1月からはデリカD:5、2015年11月からはアウトランダーの補充生産も担当しました。
過去には三菱ジープや、ホンダ・シティカブリオレなどを生産した時期もあります。
ただし、やはり工場を象徴した車種はパジェロでした。
とくに坂祝町の工場は、鋼板の加工から完成車までを一つの工場内で仕上げる「一貫生産型」の工場だったことが特徴です。
クルマ好きの目線で見ると、これはかなり重要なポイントです。
パジェロは単なる街乗りSUVではなく、悪路走破性や耐久性が求められるクロスカントリー4WDでした。
最終型となった4代目パジェロには、ラダーフレームビルトインモノコックボディや四輪独立懸架式サスペンション、「スーパーセレクト4WD II」など、本格的な4WDとしての仕組みが採用されていました。
3ドアのショートボディと5ドアのロングボディが設定されていたことも、当時のSUVとしては個性的です。
日本向け最終期には3.0L V6ガソリンエンジンと3.2L直列4気筒ディーゼルターボが用意され、ランドクルーザープラドと並ぶ本格4WDとして知られていました。
そのパジェロを長年にわたり造り続けたことが、坂祝工場の技術や地域の誇りにつながっていったのだと思います。
三菱パジェロは岐阜・坂祝でいつまで生産された?
日本向けパジェロの生産は2019年7月末に終了しました。
国内市場では2019年8月に販売を終え、1980年代から続いてきたパジェロの日本での歴史はいったん幕を閉じます。
ただし、その時点ですぐ坂祝工場全体が閉鎖されたわけではありません。
海外向けパジェロの生産はその後も続き、2021年7月2日に終了しました。
パジェロの累計生産台数は約324万台とされています。
そして2021年8月6日、パジェロ製造はすべての車種の生産を停止。8月31日には残る生産活動も終了し、坂祝町の工場は閉鎖されました。
パジェロ製造が手掛けた全車種の累計生産台数は約396万台に達しています。
約400万台に迫る車両を送り出した工場が人口約8千人の町に存在していたと考えると、その規模の大きさが分かります。
工場閉鎖の方針が坂祝町に伝わったのは2020年7月でした。
当時の町長だった柴山佳也さんは、町民から「これから町はやっていけるのか」と心配する声を聞き、先行きの分からない不安を抱えたと振り返っています。
実際、工場がなくなることは、単に「パジェロが造られなくなる」という話ではありませんでした。
町にとっては雇用と税収の柱を同時に失う大きな出来事だったのです。
個人的には、ここがパジェロと坂祝町の関係を考えるうえで最も重要なところだと感じます。
クルマの生産終了というニュースは通常、ユーザー側から「欲しかった車がなくなる」「中古車価格が上がる」といった視点で語られがちです。
しかし生産地から見れば、一つの車種の終了が地域の暮らしや財政そのものに直結する場合があります。
パジェロは、その典型的な例だったと言えるでしょう。
パジェロ工場閉鎖後の坂祝町はどうなった?
2021年8月にパジェロ製造の工場が閉鎖された後、跡地は大手製紙会社が取得しました。
当初は紙製品などの生産拠点として利用される計画が伝えられていましたが、2025年の報道では、跡地は主に物流拠点として使われているとされています。
かつて工場から響いていたプレス加工の音や、早朝の通勤時間帯にできていた従業員のマイカーの列も、町から姿を消しました。
坂祝町は工場閉鎖後、ふるさと納税の強化などを進めてきましたが、財政面では厳しい状況が続いているとされています。
2025年度の予算編成資料では、「歳入を増大させる突破口が見いだせない厳しい状況」との認識も示されました。
工場一つの存在が、地域経済にどれほど大きな意味を持っていたかが分かります。
また、パジェロ製造そのものもその後、法人としての歴史を終えています。
2023年2月に登記上の本店を愛知県岡崎市へ移し、同年10月2日には清算の決了などによって登記記録が閉鎖され、法人格が消滅しました。
つまり現在は、「坂祝町にパジェロ製造という会社と工場がある」という状態ではありません。
中古車情報で「三菱 パジェロ 岐阜」と検索すると、現在でも岐阜市、可児市、大垣市などでパジェロの中古車が見つかります。
元資料では岐阜県内に3台が掲載され、2008年式3.0ショートVR-I 4WDが99万円、2019年式3.2ロング・ファイナルエディションが489万円、2006年式3.0 ZR 4WDが166.4万円という例が確認できます。
価格は在庫状況で変動しますが、かつてこの県で大量に生産されたモデルが、今では「中古車として探す存在」になっているところに時間の流れを感じます。
新型パジェロ復活でも岐阜・坂祝で生産されないのはなぜ?
そして2026年、パジェロをめぐる状況は再び大きく動きました。
三菱自動車は2026年5月29日、2030年代に向けた新中長期ビジョンを発表し、新型パジェロを2026年秋に世界初公開すると正式に明らかにしています。
三菱自動車の加藤隆雄CEOは、新型パジェロを「三菱自動車らしさ」を詰め込んだフラグシップ商品と位置付けました。
さらに今後は新型パジェロを頂点として、スモールSUVやコンパクトSUVなどへ広げる「パジェロシリーズ」の展開も構想されています。
新型車は、三菱のピックアップトラック「トライトン」が使うラダーフレームを採用し、クロスカントリーSUVとして専用開発される計画です。
しかし、ここで重要なのが生産地です。
新型パジェロの生産工場は、かつての岐阜県坂祝町ではなく、タイの三菱自動車の生産拠点「MMTh」とされています。
2025年9月の時点でも、パジェロ復活を検討する一方、国内に新たな工場を構えて生産する想定ではなく、東南アジアで製造して日本へ輸入する方向と報じられていました。
そして2026年5月、タイ生産であることが正式に示された形です。
つまり、パジェロという車名は日本市場に7年ぶりに戻ってきても、「坂祝で造るパジェロ」が復活するわけではありません。
ここは少し寂しさを感じる人もいるでしょう。
1982年から長期間にわたりパジェロを造り、「町の特産品」とまで言われた坂祝町にとって、新型パジェロの復活は特別なニュースです。
一方、自動車メーカーの現在の経営を考えれば、生産量や輸出先、部品調達などを考慮し、主要市場に近い海外拠点で生産する判断にも合理性があります。
三菱自動車は2026年度から2031年度までに計13モデルの新型車を投入する計画を掲げています。
限られた開発・生産資源を「パジェロシリーズ」などの強みが出せる商品へ集中させる以上、かつてと同じ国内生産体制へ戻すより、既存の海外拠点を生かす方が現実的なのでしょう。
パジェロと坂祝町の歴史から見えるもの
筆者としては、新型パジェロの復活を見るとき、単に「昔の人気SUVが戻ってくる」という話だけではもったいないと感じます。
パジェロという車名の後ろには、岐阜県坂祝町で何十年も完成車を造り続けてきた人たちと、その工場とともに歩んできた地域の歴史があります。
1982年にパジェロの生産を開始し、1995年には会社名までパジェロ製造となりました。
2000年ごろには町の特産品として紹介され、地域の子どもたちは工場見学に訪れ、町民祭りや地域清掃などでも工場と住民がつながっていました。
そして2018年度には町税収入全体の16%を支えるまでの存在になりました。
これほど地域と深く結びついた車種は、国内でもそう多くないでしょう。
一方で、2019年に日本向けパジェロの生産が終わり、2021年には海外向け生産も終了。坂祝工場そのものも閉鎖されました。
そこから5年後の2026年、新型パジェロは復活します。
ただし、生産地はタイです。
この違いは、自動車産業がこの数十年でどう変化したかを象徴しているようにも見えます。
かつては日本国内の特定地域に巨大な工場を置き、地域の雇用や税収と強く結びつきながら車を造る形が目立ちました。
現在は世界市場を前提として、車種ごとに最も効率のよい拠点へ生産を集約する考え方がより強くなっています。
コスパを重視して車を見る立場からすると、生産拠点の最適化によって新型パジェロの商品力や価格競争力を高められるのであれば、それ自体はユーザーにもメリットがあります。
ただ、パジェロの歴史を知る人にとって「岐阜・坂祝」という地名が特別な意味を持ち続けることも忘れてはいけないと思います。
新しいパジェロがタイで造られる時代になっても、パジェロというブランドの日本での土台を長く支えた場所の一つが坂祝町だった事実は変わりません。
まとめ
三菱パジェロと岐阜県坂祝町は、1982年から長年にわたる生産を通じて深く結びついてきました。
坂祝町に本社・工場を置いたパジェロ製造は1995年にその社名となり、パジェロだけでなくデリカD:5やアウトランダーなども生産。全車種の累計生産台数は約396万台に達しました。
坂祝町ではパジェロが「町の特産品」として紹介され、「パジェロの町」と呼ばれるほど地域に浸透していました。
2018年度にはパジェロ製造が町税収入全体の16%、法人税の34%を占めるなど、地域経済を支える存在でもありました。
しかし日本向けパジェロの生産は2019年7月末、海外向けは2021年7月に終了し、坂祝工場も2021年8月31日に閉鎖されました。
そして2026年5月29日、三菱自動車は新型パジェロを2026年秋に世界初公開すると正式発表しました。
国内では7年ぶりとなるパジェロ復活ですが、新型の生産拠点は岐阜・坂祝ではなくタイのMMThです。
新しいパジェロは海外で生まれますが、日本のパジェロ史を語るうえで岐阜県坂祝町を外すことはできません。
かつて一台のSUVが町の特産品となり、雇用や税収、地域の風景まで形づくった――。その歴史を知ってから2026年の新型パジェロを見ると、単なる「復活モデル」とは違った重みが感じられるのではないでしょうか。
よくある質問
三菱パジェロは岐阜県のどこで生産されていた?
岐阜県加茂郡坂祝町にあったパジェロ製造株式会社の工場で生産されていました。パジェロは1982年から同工場で一貫生産され、坂祝町は「パジェロの町」と呼ばれるようになりました。
坂祝町のパジェロ工場は現在も残っている?
自動車工場としての生産活動は終了しています。2021年8月6日に全車種の生産を停止し、同年8月31日に生産活動を終えて工場が閉鎖されました。跡地はその後、別企業が取得しています。
2026年の新型パジェロも岐阜・坂祝で造られる?
いいえ。三菱自動車が2026年5月29日に示した計画では、新型パジェロはタイの生産拠点MMThで生産されます。日本では7年ぶりの復活となりますが、坂祝町でのパジェロ生産が再開するわけではありません。